光の行方 1
その採用通知を手にしたとき、奇跡が起こったと、月子(つきこ)は手が震えた。 玉砕覚悟で採用試験に臨んだ、株式会社キサラギ本社重役秘書募集。 緊張しすぎて、面接ではどんな受け答えをしたかさえ覚えていなかったのに。 まさか採用されるなんて! 何度も鏡をチェックして、深呼吸をして、月子は初出勤のために秘書課の扉を開けた。 「ようこそ!キサラギ秘書課へ!友近月子さん!」...
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苦手人物もいるが、月子のキサラギでの仕事は概ね順調だった。 「友近さんも仕事に慣れてきたし、私もこれで安心して産休に入れるわ。」 澄がそう言って産休に入った後、月子は本格的に理一に付いて一緒に行動することが 増えた。そうなると、理一のSPである太陽にもいつも一緒なわけで、それだけが苦痛の 種だった。いや、太陽が別になにかをするわけではない。むしろ、なにもしない。ただ、...
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また、引越ししなくてはいけない。けれど、もう転職先も知られているだろうから、 どこに引越ししても尾行されたらまた同じことの繰り返しだろう。 被害届け・・・。でもなにか危害を加えられたわけじゃない。前の会社のときにも相談窓口に行ったりしたけれど、話を聞くだけでなにもしてくれなかったし、だから仕事を辞めて引越しを決心したのに。 「今朝は早いのね?まだ終業1時間前よ?」...
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「お食事をお持ちしました。」 ノックのあとに、ボーイが食事を持って入って来た。月子が必死で太陽を心の中で 呼んでいる間に、遥方がボーイを部屋に入れていたのだ。 「腹減ったな。」 スッと理一が月子から離れた。月子はヘタヘタとその場に座り込む。 「デザートは後でお持ちいたします。」 大きなテーブルにきれいに並べられた料理。遥方と理一は席に座った。 「友近さんも食べよう。冷めるよ?」...
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警察で事情を聞かれ、帰宅してもいいと言われたのはもう日付が変わる頃だった。 「湯沢真、あの男が君をずっとストーカーしていた男だったんだね?」 「はい・・・。」 遥方が自販機のカフェオレを渡してくれた。 「タクシーを呼んだから、それを飲んだら帰るといい。明日は午後出勤でいいから。」 「はい、ありがとうございます。あの、社長と、倉本さん・・・は?」...
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10時出社ということになっていたが、ストーカーの問題がなくなったので、 月子は定時出社した。 キサラギ本社前には何人かマスコミの人間がいたが、とくに社員にインタビューする ことはなく、ただ会社の外観を撮影しているだけのようだった。 「おはようございます!」 駆け足で秘書室に入ると、館山が少し驚いた顔をして月子を見た。 「おはよう、早いのね?10時出社でいいのよ?昨夜は大変だったんでしょう?」...
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遠慮する月子を、家から会社、会社から如月本家へと毎日送迎する。 無口な太陽に合わせてか、車中で月子が太陽に話しかけてくることはない。 だが不思議と、なにもしゃべらない車中でも居心地が悪くなることはなかった。 会社での仕事である遥方の補佐も、指示がわかりやすく困ることはない。 遥方は理不尽なことはもちろん言わないし、すべてが計画通りで的確で、 とても仕事ができる。遥方と理一は静と動。...
View Article恋する眼鏡 5
驚いて思考が停止しているうちに、紫宇は統至に件の和食屋に連れてこられた。 「よかった、席が空いていて。やっぱり人気があるんだな。ほとんど満席だ。」 タイミングよく待たずに入れたことに統至はご満悦のようだった。 「なに飲む?さっきは結構カクテル系飲んでたよね?」 ドリンクメニューを渡され、紫宇はやっと我に返る。 「あ、えっと、お酒はもうやめとくね、てか、飲んでたの、知ってたの?」 「見てた。」...
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